絶望ノオト

ゆっくりと確実に、世界は終わっていく。

ルーティンワーククラッシャー。

生はルーティンワークだろうか。

 

自分の意思ではどうすることもできない力で目の前にやってくるものを追ったり眺めたり時に手を加えたりして目的を達成したら次へと移る。繰り返しは頭にリズムを植え付け、一定のパフォーマンスを長時間発揮させてくれる。

生産性の極度に高まっている状態をキープする力は集中力ではなく惰性だ。慣れる力というべきか。パフォーマンスを発揮し続けられる場所を作ることさえできれば常時力を抜いてパワーを発揮できるようになるというわけだ。朝起きてから寝るまでの生活力や働いている昼中の技術だったりいろいろだろうけど、たぶん大なり小なり考えなくても身体が行動する力を生まれながらに人間は持っている。そうでもしないといちいち脳が指示し続けないといけないし、そうすると疲れるし筋肉も凝って大変そうだ。きっとホモサピエンスになった時に人類に必要な能力だから獲得したんだろう。

ところで今日はプレミアムフライデーというイベントだったみたいだ。僕は3人の太郎達が仲間とわいわいやってる会社の電話回線と学生のころから契約しているので上記プレミアムフライデーの恩恵は受けられない。どころか3人の太郎は長期ユーザーの僕を陰で笑っているほどなにも返してはくれない。普段まったく金曜日のプレミアム感なんて感じないし電車は酔っ払いで溢れ帰るし都市部の金曜日なんて最低以外の何者でもないと思って生活を送っている。そして今日は妻が珍しくご飯を作りたくない気分だったようなので、仕事の帰りに牛丼屋さんで食事をお持ち帰りしてほしいとの指示を仰せつかった。気前よく受けたはいいけど、通い慣れた牛丼屋さんはなぜか長蛇の列でいつもと雰囲気が違う。警備員さん、パトカー1台おまわりさん3人が店の入り口でなにやらやりとりしたり時折お客さんを中に通したりしている。こりゃ強盗でも入ったかお客さん同士でトラブルでもあったのかと思って列に並んで眺めていると、みんな何やら店員さんに携帯の画面を見せては牛丼を受け取ってさっと帰って行く。その工程にかかる時間はだいたい1人15秒。どんどん受け取っては流れて帰っていく。ベルトコンベアー方式のお客さんとは斬新な、と思ったらどうやら思い当たるフシに出くわした。というかデカデカとのぼりが目の前に立っていた。プレミアムフライデー。ははぁなるほどこれが噂に聞く契約ユーザー様限定プレフラ効果ってやつなのか、すげえなと思っていたら以外と早く僕の順番が来たので、すき焼き善弁当とカレー大盛りチーズ、サラダを注文する。その瞬間この世界は凍りついた。

店員さんの動きは固まり僕に言葉をもう一度発するよう要求している雰囲気だ。これ以上伝えることもないのでもう一度上記の要望を伝えると店員さんは少々お待ちくださいの言葉のあと別の店員さんになにかを確認しに行ってしまった。この時点で店内のリズムは崩壊した。それまで牛丼を作っては投げ作っては投げしていた店員さん達のチームプレイはガタガタと音がして崩れ、まず注文を聞いてくれた店員さんが牛丼を運んでいた店員さんの手を止め、出来立ての牛丼の溢れかえったカウンターに捌き切れない牛丼が溢れかえり早くさばいてくれないともう置けないよと作り手の店員さんは持ち場を離れお皿を回収しに出てきたところでお皿を下げてきた店員さんと衝突しお皿が床に落ちる。

やっと最初の店員さんが作れますと僕のところに戻ってきたころで僕の後ろの長蛇の列はさらに倍になっておりなんだか店内に熱気なのか殺気なのかよくわからないギスギスした雰囲気が生まれ始める。牛丼買いにきた客vs牛丼もらいにきた客の構図ができあがってしまったらどうしよう。僕は完全にこの店内一体型ルーティンをクラッシュさせてしまったみたいだ。それまで平和な輪を形成していた店内が急に異国の町のような雰囲気になりみんな僕を異端者のような空気で包んでいる。や、殺られる…?僕はただ今日だけ気弱になった妻のために牛丼を買いにきただけなのに、(正確には牛丼は注文してないけど)この世界のリズムを狂わせただけでこの仕打ち。

いやたぶん異国の風は君たちのほうで僕こそ普遍的な一般市民だったはずだ昨日まで、もとい今日以外は。負けてはいけない。ぼくは一人暮らしのころからヘビー牛丼ユーザーだ、玄人牛丼買いにきたランキングではだれよりも上のはずだ、少なくともこの店内では。雨の日も風の日も雪の日も嵐の日にも徹夜明けでも給料日前のお金ない時でも牛丼屋さんに行き牛丼をたのんだ経験が時にカレーだったかもしれないけど記憶にある。ここで引いたらあの日々はなんだったんだろうって気になってくる。くやしい。僕は注文を終え一旦横にズレた。再び始まるルーティンワーク。僕を尻目にスマホの画面を見せては作り置きの牛丼を受け取って帰って行く元ボーダーホンの会社と契約しているユーザー様達。それを眺めること10分、別ルートで運ばれる包み紙。今は異端者のためにわざわざ作ってくれたそれを受け取りまたルーティンを割いて僕はお金を払い、卵が入っているかチーズが入っているかを確認して受け取って帰ってきた。外では相変わらずお巡りさんと警備員さんがあたふた顔で交通整理したりお客さんを誘導したりして大変そうだった。強盗やトラブルじゃなくて良かった。

だれが決めたのか知らないがこの大変な状況を知っているんだろうか。笑いながら報告だけ受けてるんじゃないか?予測できないことだったのかもしれないけど対策のノウハウはある程度蓄積されたはずだ。流れ作業には流れ作業の、ルーティンにはルーティンとしての土台を形成しておくことに全力を注ぐべきだ。でないとみんなが不幸になる。パフォーマンスを発揮できない環境に置かれるほど人にとって不幸なことはない。このプレミアムフライデーでみんなは幸せになれていない。少なくとも僕は普段感じる必要の無い殺気を背後に受け心に致命傷を負ったし、くやしいし、警備員さんとお巡りさんは冬の寒空の下ギリギリと凍えながら交通誘導に駆り出されている。このことは一生忘れない。決して牛丼がタダでもらえないことを妬んでいるんじゃないんだからね。とにかく一生忘れない。絶対。そして太郎達も自分達の長期ユーザーをないがしろにしないで何かお返しとかしてほしい。お願い。その時できれば牛丼はやめてほしい。だれも幸せになれそうにないから。